プロのクリエイターから趣味で写真を編集する方まで、世界中で使われている画像編集ソフトの代名詞とも言えるのがAdobe Photoshopです。しかし、その高性能さゆえに「作業中に動作がカクつく」「起動が遅い」「編集中にフリーズして強制終了してしまう」といった動作の重さに悩まされることも少なくありません。この動作の重さの最も大きな原因として、多くの方が「メモリ不足」を思い浮かべますが、実は原因はそれだけではありません。
この記事では、Photoshopが重くなる根本的な原因を徹底的に解説し、特にメモリとPCスペックの関係を分かりやすく説明します。さらに、すぐに実践できる具体的な軽量化テクニックを5つ厳選してご紹介します。これらの設定を見直すことで、あなたのPhotoshop環境は劇的に改善され、より快適でスムーズな制作活動が可能になるはずです。
【この記事で分かること】
- Photoshopの動作が重くなる主要な原因とメモリ不足の関係
- 快適な動作を実現するために確認すべきPCのシステム要件
- Photoshopの「パフォーマンス設定」を最適化する具体的な手順
- スクラッチディスクやキャッシュ設定といった専門的な設定の改善方法
Photoshopが動作重い原因を徹底解説|メモリ不足との関係を理解しよう
Photoshopの動作が重いと感じたとき、多くの方がパソコンの買い替えやメモリの増設を検討しますが、その前に、まずは「なぜ重いのか」という根本的な原因を理解することが重要です。Photoshopは、レイヤーやフィルタ、高解像度の画像処理など、非常に多くのコンピューティングリソースを必要とします。
このセクションでは、動作のボトルネックとなりやすい要因を深く掘り下げ、特にメモリとストレージがどのようにパフォーマンスに影響するかを解説します。原因を正しく特定できれば、無駄な投資をすることなく、最も効果的な対策を講じることができるようになります。
Adobe Photoshopが重くなる主な原因とは?
Photoshopの動作が遅くなる原因は一つに特定できないことが多く、いくつかの要因が複合的に絡み合っている場合がほとんどです。主な原因として、まず挙げられるのは「大量のメモリ(RAM)消費」です。Photoshopは、開いているドキュメントだけでなく、操作の履歴(ヒストリー)や、アンドゥ・リドゥのために膨大なデータを一時的にメモリ上に保持します。特に多数のレイヤーやスマートオブジェクト、高解像度のブラシを使用している場合、あっという間にメモリが枯渇してしまいます。
次に重要なのが「中央演算処理装置(CPU)の処理能力」です。特にフィルターの適用や複雑なレンダリング処理、あるいは大量のピクセルを扱う変形操作などは、CPUの演算能力に大きく依存します。CPUの性能が低いと、これらの処理に時間がかかり、結果としてPhotoshop全体が応答しなくなったり、動作がカクついたりします。
さらに見落とされがちなのが「グラフィック処理装置(GPU)の活用」です。近年のPhotoshopは3D機能や複雑な描画、スムーズなパン(画面移動)やズームといった操作を高速化するためにGPUを積極的に使用します。もしお使いのPCに高性能なGPUが搭載されていない、あるいはPhotoshopの設定でGPUの使用が無効になっている場合、描画処理が全てCPUに押し付けられ、動作が著しく遅くなる原因となります。これらの主要な要素が互いに影響し合い、Photoshopの快適性を決めていることを理解することが、軽量化の第一歩となります。
メモリ不足がPhotoshopのパフォーマンスに与える影響
Photoshopにおけるメモリ(RAM)は、作業台の広さに例えられます。この作業台が広ければ広いほど、複数のドキュメントや巨大なファイルを同時に開き、スムーズに編集することができます。しかし、この作業台のスペース、つまりメモリが不足すると、Photoshopは必要なデータを全てメモリに保持できなくなります。その結果、どうなるかというと、Photoshopは「スクラッチディスク」と呼ばれる代わりの作業領域をストレージ(HDDやSSD)の中に作り、そこで一時的にデータを出し入れし始めます。
この「メモリからスクラッチディスクへのデータ移動」は、RAMが非常に高速であるのに対し、ストレージへのアクセスは相対的に遅いため、動作のボトルネックとなります。つまり、メモリが不足するたびに、Photoshopは高速なメモリではなく、低速なストレージを使って作業を行うため、すべての操作において待機時間が発生し、動作が重く感じられるのです。これがメモリ不足がパフォーマンスに与える直接的な悪影響です。特に、ブラシストロークを描く、フィルタを適用する、ズームイン・アウトをするなど、頻繁に大量のデータを操作するタイミングで、動作が顕著に遅くなります。
この状態を解消するには、Photoshopに割り当てるメモリの割合を増やすか、物理的にRAMを増設することが最も効果的です。特に、Photoshop以外のブラウザや他のアプリケーションが大量のメモリを消費している場合、Photoshopが使えるリソースがさらに減ってしまうため、動作が重いと感じたときは、タスクマネージャーやアクティビティモニタで他のアプリケーションのメモリ使用量も確認することが大切です。
動作が重い時に確認すべきシステム要件とは
Photoshopを快適に使用するためには、Adobeが公式に定めている「システム要件」を満たしていることが大前提となります。このシステム要件は、Photoshopのバージョンが上がるごとに求められるスペックも高くなる傾向があります。単にPhotoshopが起動できる最低限の要件ではなく、「快適に動作させるための推奨要件」に注目することが、動作の重さを解消する鍵となります。特に、メモリ(RAM)、グラフィックカード(GPU)、そしてストレージの3点は、Photoshopのパフォーマンスに直結する要素です。
以下の表に、Adobeが公開している推奨システム要件の目安をまとめました。これは一般的な高解像度(例えば4K程度)の画像編集を想定したものであり、8Kなどの超高解像度や3D機能を多用する場合は、さらに高いスペックが求められることを覚えておいてください。
要素 | 最低限の要件 (動作可能レベル) | 推奨される要件 (快適レベル) |
プロセッサー (CPU) | 64ビットサポートあり、2GHz以上のプロセッサー | マルチコアプロセッサー(Intel 第10世代以降、AMD Ryzen 5以降など) |
メモリ (RAM) | 8 GB | 16 GB 以上 (32 GB 推奨) |
グラフィックカード (GPU) | 2 GBのVRAMを搭載したGPU | 8 GB以上のVRAMを搭載したGPU (NVIDIA, AMD, Apple M1/M2/M3チップなど) |
ストレージ | 4 GBの空き容量 | 100 GB以上の空き容量、高速なSSD(NVMe接続推奨) |
モニター解像度 | 1280 x 800 | 1920 x 1080 以上 |
推奨要件の「16GB以上のメモリ」という点は、現代の複雑なPhotoshop作業においてはもはや必須と言えるでしょう。また、ストレージについても、起動速度やファイル読み込み速度に直結するため、HDDではなくSSD、特にSATA接続よりもさらに高速なNVMe接続のSSDを選ぶことで、体感速度は大きく向上します。これらの要件を現在のPCと比較し、不足している部分があれば、それが動作の重さの最も可能性の高い原因であると特定できます。
参照元:Adobe Inc.:Photoshop の必要システム構成
メモリとストレージ(HDD/SSD)の違いを正しく理解
Photoshopのパフォーマンスを語る上で、混同されがちなのが「メモリ(RAM)」と「ストレージ(HDD/SSD)」です。この二つはどちらもデータを保持する役割を持っていますが、その役割、速度、そして価格は全く異なり、Photoshopの動作に与える影響も異なります。この違いを正しく理解することで、どこに投資すべきか、どの設定を調整すべきかが明確になります。
特徴 | メモリ (RAM: Random Access Memory) | ストレージ (HDD/SSD) |
役割 | 現在実行中のプログラムや作業データを一時的に保持する「作業スペース」 | プログラムや作成したファイルを永続的に保存する「倉庫」 |
速度 | 非常に高速(CPUと直結) | RAMに比べて低速だが、SSDはHDDより格段に速い |
データ保持 | 電源を切るとデータは消える(揮発性) | 電源を切ってもデータは残る(不揮発性) |
Photoshopへの影響 | 作業中のレスポンス(ブラシ描画、フィルタ適用、ヒストリー)に直結 | 起動時間、ファイルを開く・保存する時間に直結、スクラッチディスクとして使用 |
一般的な容量 | 8GB, 16GB, 32GB など | 500GB, 1TB, 2TB など |
簡単に言えば、Photoshopがスムーズに動くかどうかは、主に「メモリ(作業スペース)」の広さで決まります。メモリが足りなくなると、Photoshopはストレージの一部を「スクラッチディスク」という一時的な作業スペースとして使い始めます。前述の通り、ストレージはメモリよりも遥かに遅いため、この時点で動作が重くなります。
したがって、ファイルが開けない、保存に時間がかかる、という問題はストレージの読み書き速度(SSDへの交換)で解決しやすい一方、「編集中にカクカクする」「ヒストリーを戻すと遅い」といった問題は、メモリ(RAM)の増設が最も有効な対策となります。メモリとストレージはどちらも重要ですが、Photoshopの「動作の重さ」を解消するためには、まずメモリの状況を改善することが最優先となるのです。
Photoshopが遅くなるタイミング別の原因をチェック
Photoshopの動作が重いと感じるタイミングはいくつかあり、そのタイミングによって原因を絞り込むことができます。自分のPCでどの操作が遅いのかを観察することで、よりピンポイントな解決策を見つけ出すことが可能です。ここでは、一般的な遅延の発生タイミングと、それに最も関連性の高い原因を整理します。
起動時やファイルの読み込み・保存時
このタイミングで遅延が発生する場合、主な原因はストレージの速度にあります。
- ストレージの速度: HDDを使用している場合、Photoshopの巨大なプログラムファイルや高解像度の画像ファイルの読み書きに時間がかかります。SSDへの交換が劇的な改善をもたらします。
- ファイルの複雑性: 読み込もうとしているファイル自体に、膨大なレイヤーや高解像度のテクスチャが含まれている場合、ファイルサイズが大きくなり、読み込みに時間がかかります。
編集中や描画時にカクつく場合
最もクリティカルな問題であり、作業効率に直接影響します。主な原因はメモリとCPU、そしてGPUにあります。
- メモリ不足: 開いているドキュメントのサイズ、レイヤー数、ヒストリーの状態によってメモリが限界に達している可能性が高いです。メモリ不足でスクラッチディスクにアクセスしている状態です。
- CPU/GPUの処理負荷: ブラシサイズの大きい描画、複雑なフィルタ(例:ぼかしギャラリー、液状化)、スマートオブジェクトの編集など、瞬間的に大量の演算が必要な操作は、CPUとGPUの性能に依存します。
ズーム・パン(画面移動)操作時
この操作の滑らかさは、主にGPUの性能とPhotoshopの設定に依存します。
- GPUの使用状況: Photoshopの環境設定で「グラフィックプロセッサーを使用」が有効になっていない、またはグラフィックカードのドライバーが古い場合に発生しやすいです。GPUが描画処理を担うことで、この操作は格段にスムーズになります。
- モニターの解像度: 4Kや5Kなどの超高解像度モニターを使用している場合、描画するピクセル数が多くなるため、GPUに大きな負荷がかかります。
これらのタイミング別チェックリストを参照し、ご自身の環境でボトルネックになっている部分を特定することで、次に解説する具体的な軽量化テクニックを効果的に適用できるようになります。原因が不明なまま闇雲に設定を変更するのではなく、論理的に原因を特定することがプロのやり方です。
パソコンのスペックとPhotoshopの相性問題
Photoshopの動作が重いと感じる多くのケースは、単純なスペック不足だけでなく、「パソコンのスペックとPhotoshopの使用目的との相性」に起因しています。例えば、最新のノートパソコンでも、薄型軽量モデルに搭載されている省電力型のCPUや統合型グラフィックス(GPU内蔵)では、Photoshopの高度な処理には力不足となることがあります。高性能なPhotoshopを扱うプロであれば、この相性問題を理解し、用途に見合ったスペックのPCを選ぶ必要があります。
特に気をつけたいのが、CPUの種類です。Intel Core iシリーズやAMD Ryzenシリーズには、処理能力を重視したHシリーズ(高性能)と、消費電力を抑えたUシリーズ(省電力)があります。Photoshopで高解像度の画像を頻繁に扱う場合、Hシリーズのような高いクロック速度と多くの物理コアを持つCPUを選ぶ方が、Uシリーズよりも圧倒的に快適になります。
また、Macユーザーであれば、Apple Silicon(M1, M2, M3チップなど)のメモリの使い方にも相性があります。Apple Siliconは、CPU、GPU、メモリが統合されたユニファイドメモリを採用しており、非常に高速なデータアクセスが可能です。しかし、このユニファイドメモリはCPUとGPUで共有されるため、メモリをケチるとCPUもGPUも同時にリソース不足に陥りやすくなります。例えば、画像編集だけでなく動画編集(Premiere Proなど)も行う予定がある場合は、最低でも32GBのメモリを選択することが、長期的な相性を良くする賢明な判断と言えるでしょう。
使用目的のレベル | 推奨されるCPUタイプ (Intel/AMD) | 推奨されるGPUタイプ | メモリの推奨 (RAM) |
初級・簡単なレタッチ | Core i5 / Ryzen 5 (Uシリーズでも可) | 統合型GPU (Intel Iris, Radeon Graphics) | 16 GB |
中級・多層レイヤー | Core i7 / Ryzen 7 (Hシリーズ推奨) | VRAM 4GB以上の専用GPU | 32 GB |
上級・8K/3D/大規模制作 | Core i9 / Ryzen 9 (Hシリーズ必須) | VRAM 8GB以上の高性能専用GPU | 64 GB 以上 |
スペックと用途のバランスが取れていないと、Photoshopは最高のパフォーマンスを発揮できません。自身の作業内容を見直し、それに合致するPCスペックかどうかを判断することが、相性問題の解決につながります。
参照元:専門家監修:PCパーツとソフトの互換性ガイド
動作が重い時にまず試すべき簡単な確認ポイント
パソコンのスペックやPhotoshopの設定を深く掘り下げる前に、動作が重いと感じたときに誰でもすぐに試せる、簡単な確認ポイントがいくつかあります。これらの基本的なチェックを行うだけで、突発的な動作不良や一時的な負荷の集中が解消されることが多いため、まずはこれから試すことを強くお勧めします。
1. パソコンの再起動を行う
多くのソフトウェアの動作不良や一時的なメモリの逼迫は、再起動によって解消されます。再起動することで、Photoshopだけでなく、OS全体が使用していた一時ファイルやメモリ上の不要なデータがクリアされ、システムがリフレッシュされます。特に、パソコンを数日間スリープ状態にしたまま使い続けている場合、メモリ上に古いデータが蓄積されている可能性が高いため、効果は絶大です。
2. 他の不要なアプリケーションを終了させる
Photoshopが動作重い原因の多くは、Photoshop自体の負荷ではなく、バックグラウンドで動いている他のアプリケーションがメモリを大量に消費していることにあります。
- ウェブブラウザ(特に多くのタブを開いている状態)
- 動画編集ソフトや3Dレンダリングソフト
- チャットツールやメールソフト
- ファイル同期サービス(Dropbox, Google Driveなど)
これらのアプリケーションを全て終了させるだけでも、Photoshopに割り当てられるメモリが大幅に増え、動作が改善することがあります。Windowsではタスクマネージャー、Macではアクティビティモニタを開き、Photoshop以外でメモリを多く使っているプロセスがないか確認してみましょう。
3. Photoshop内のヒストリーパネルをクリアする
Photoshopのヒストリーパネルは、アンドゥ・リドゥを可能にするために、過去の操作記録をメモリ上に保存しています。このヒストリーの数が膨大になると、それだけでメモリを圧迫します。
- ヒストリーパネルのクリア:編集作業が一段落したら、ヒストリーパネルのオプションメニューから「ヒストリーを消去」を選択するか、ドキュメントを閉じて再度開くことで、ヒストリーをリセットできます。ただし、これを実行すると直前の操作に戻れなくなるため、実行する際は十分に注意してください。
これらの簡単な確認ポイントは、設定変更のようなリスクがなく、すぐに試せるため、動作の重さに気づいたらまず実行する習慣をつけることが大切です。特に再起動は、トラブルシューティングの基本中の基本と言えます。
Adobe Photoshopのメモリ不足を解消する軽量化テクニック5選

ここからは、動作重い問題を解決するために、Photoshop内部の環境設定を直接変更し、メモリ不足を解消し、動作を安定化させる具体的なテクニックを5つご紹介します。これらの設定調整は、パソコンのスペックを物理的に変更することなく、Photoshopの性能を最大限に引き出すためのプロの技術です。特に「パフォーマンス設定」「キャッシュ設定」「スクラッチディスク」の三つは、Photoshopの安定性と速度に直結するため、必ず見直してください。これらの設定を最適化することで、古いPCでも体感速度を大幅に向上させることが可能です。
このセクションで解説する設定は、Photoshopの環境設定ダイアログからアクセスし、一度設定すれば恒久的に効果を発揮します。ただし、これらの設定はあなたのPC環境や作業内容によって「最適解」が異なります。そのため、推奨値を参考にしつつも、実際に作業してみて最も快適になる設定値を探すことが、プロフェッショナルな使い方と言えるでしょう。
【以下で分かること】
- Photoshopに最適なメモリ割り当ての割合と変更方法
- スクラッチディスクの場所をどう選ぶべきかの決定的な基準
- 作業内容に合わせたキャッシュ設定の使い分けのコツ
- WindowsとMac、それぞれのOSで実行すべき追加の最適化手順
Photoshopの「パフォーマンス設定」でメモリ割り当てを最適化
Photoshopが動作重いと感じる最大の原因であるメモリ不足を解消するために、最初に手を付けるべき場所が「パフォーマンス設定」です。この設定では、Photoshopがシステムメモリ(RAM)をどれだけ使用して良いかをパーセンテージで指定できます。この設定が不適切だと、Photoshopが使えるリソースが少なくなり、頻繁にスクラッチディスクにアクセスすることになり、動作が遅延してしまいます。
理想的なメモリ割り当ての割合
Photoshopの設定画面にある「パフォーマンス」タブには、「Photoshopで使用可能にするRAM」というスライダーがあります。
- 推奨値: 通常、システム全体のRAMの**70%から85%**の間で設定することが推奨されます。
この設定は、Photoshopが最大限にメモリを使えるようにしつつも、OSや他の重要なバックグラウンドアプリケーション(メール、チャット、システム監視ツールなど)が安定して動作するための最低限のメモリを確保するための絶妙なバランスです。
もしPhotoshopだけを立ち上げて作業する場合、90%程度に設定しても問題ありませんが、ウェブブラウザや他のAdobeソフト(Illustrator, Premiere Proなど)を同時に起動する場合は、70%から80%に抑えておくと安定します。70%を下回ると、メモリ不足による遅延が発生しやすくなります。逆に95%など極端に高い割合に設定すると、OSの動作に必要なメモリまでPhotoshopが使ってしまうため、PC全体がフリーズする原因となる可能性があります。
メモリ割り当ての変更手順
- Photoshopを起動し、メニューバーから「編集」>「環境設定」>「パフォーマンス」(Macの場合は「Photoshop」>「設定」>「パフォーマンス」)を選択します。
- 「Photoshopで使用可能にするRAM」の項目にあるスライダーを動かして、推奨される70%~85%の範囲内で値を設定します。
- 設定後、Photoshopを再起動する必要はありませんが、設定を確定させるために「OK」ボタンを押してダイアログを閉じます。
実際に作業してみて、動作が重いと感じたらこの割合を少しずつ増やしたり減らしたりして、ご自身の作業環境における最適な値を見つけ出してください。この一手間が、日々の作業効率を大きく左右することになります。
RAM総容量の目安 | Photoshopの割り当て推奨量 (80%の場合) | 残りのシステム利用可能量 (20%の場合) |
16 GB | 12.8 GB | 3.2 GB |
32 GB | 25.6 GB | 6.4 GB |
64 GB | 51.2 GB | 12.8 GB |
参照元:専門家ブログ:Adobe製品のメモリ管理と最適化手法
不要なプラグインや拡張機能を整理して動作を軽くする
Photoshopの拡張性の高さは魅力ですが、多くのプラグインや拡張機能(エクステンション)をインストールしていることが、動作の重さに繋がることがあります。これらの追加機能の多くは、Photoshopの起動時や動作中に、バックグラウンドでメモリを占有したり、互換性の問題からクラッシュの原因になったりすることがあります。不要なプラグインは、Photoshopから完全に削除するか、少なくとも無効化することが、動作を軽くする上で非常に有効な手段となります。
プラグインが動作を重くするメカニズム
プラグインや拡張機能は、Photoshopのプロセス内に組み込まれて動作します。
- 起動時間の遅延: 起動時に全てのプラグインを読み込むため、数が多ければ多いほど起動に時間がかかります。
- メモリの常駐: 一部のプラグインは、使用されていない状態でもメモリ上に常駐し続け、Photoshopが使えるメモリを恒常的に減らしてしまいます。
- 競合による不安定化: 複数のプラグインが同時に起動したり、Photoshopの新しいバージョンとの互換性がない場合、予期せぬエラーやフリーズを引き起こすことがあります。
不要なプラグインの整理方法
- 使用頻度の確認: まず、過去3ヶ月以上全く使用していないプラグインをリストアップします。特に試用期間が終わったものや、今は別のツールで代替している機能のプラグインは削除対象です。
- 拡張機能の管理: Photoshopのメニューバーから「ウィンドウ」>「エクステンション」でインストールされている拡張機能を確認できます。不要なものは提供元の指示に従ってアンインストールするか、Adobe Extension Manager(または最新のCreative Cloudアプリ)を使って無効化します。
- 手動での削除: サードパーティ製のプラグインは、Photoshopのインストールフォルダ内の「Plug-ins」フォルダに直接ファイルが格納されている場合があります。Photoshopを終了した状態で、このフォルダから不要なファイルを削除します。ただし、どのファイルがどのプラグインに属しているか分からない場合は、安易に削除せず、提供元のアンインストール手順を必ず確認してください。
動作を軽くするだけでなく、環境をシンプルに保つことは、トラブルを未然に防ぎ、作業に集中するためにもプロのクリエイターにとって重要な習慣です。
キャッシュ設定を見直して動作スピードを改善する方法
Photoshopには、画像の処理を高速化するために「キャッシュ」という仕組みが組み込まれています。これは、画像データの表示レベルやレイヤー情報を一時的に保存しておくことで、ズームイン・アウトやレイヤーのオン・オフといった操作を素早く行うためのものです。このキャッシュの設定を、あなたの作業内容に合わせて適切に見直すことで、体感的な動作スピードを大きく改善することができます。
キャッシュレベルの設定
キャッシュ設定は「環境設定」>「パフォーマンス」タブ内の「ヒストリー&キャッシュ」セクションで行います。ここで最も重要なのが「キャッシュレベル」です。
- キャッシュレベル(1〜8)の選択基準:
- 低レベル(1〜2): 巨大なファイル(例:数万ピクセル四方の超高解像度画像)を扱う場合に適しています。これは、Photoshopがキャッシュに時間をかけず、メモリを他の処理に多く割り当てる設定です。レイヤーのオン・オフなどの操作は少し遅くなりますが、初期の読み込みやフィルタ適用は早くなる傾向があります。
- 高レベル(4〜8): 小さなファイルや、多数のレイヤー、複雑なスマートオブジェクトを扱う場合に適しています。Photoshopが多くのキャッシュを作成するため、ズームやパン、レイヤーの表示切り替えが非常にスムーズになりますが、その分、メモリを大量に消費します。一般的なWebデザインや写真レタッチでは、デフォルトの4または6がバランスが良いとされています。
キャッシュタイルサイズの設定
キャッシュタイルサイズは、Photoshopが一度に処理するデータのブロックサイズを指定します。
- 小さいサイズ(128KB, 256KB): 多数の小さなレイヤーやオブジェクトを扱う場合に適しています。
- 大きいサイズ(1024KB以上): 巨大なファイル(印刷物用の高解像度画像など)を扱う場合に適しています。
多くのプロは、標準的な作業(Web、写真レタッチ)では「キャッシュレベル:4〜6」、「キャッシュタイルサイズ:1024KB」あたりをベンチマークとしていますが、ご自身の環境でキャッシュレベルを「8」まで上げてみて、ズームやパンの操作がどれだけ滑らかになるかを試すことをお勧めします。この設定の微調整が、Photoshopのレスポンスの良さに直結します。
不要なレイヤー・履歴を削除してデータ容量を軽減
Photoshopのファイルサイズが肥大化し、動作が重くなる原因の多くは、ドキュメント内部の不要なデータにあります。特に「非表示レイヤー」「残された操作履歴(ヒストリー)」「スナップショット」の三つは、ファイルサイズとメモリ消費に直接影響します。これらのデータを定期的に整理・削除することで、ファイルを開く速度や編集中の動作を大幅に改善することが可能です。
1. 非表示レイヤーの削除
デザインの試行錯誤の中で、最終的に使わなくなった非表示レイヤーが大量に残っていることがあります。非表示レイヤーであっても、Photoshopはそれらのレイヤー情報をメモリに保持し、ファイルサイズにも含まれます。
- 削除の推奨: 最終的なデザインが固まったら、「ファイル」>「スクリプト」>「すべての非表示レイヤーを削除」などの機能(あるいは手動)で、不要な非表示レイヤーを積極的に削除しましょう。
2. ヒストリーとスナップショットの管理
前述の通り、ヒストリーパネルは「アンドゥ」を可能にするための操作履歴ですが、この履歴のデフォルト設定を見直すことでメモリ消費を抑えられます。
- ヒストリー数の調整: 「環境設定」>「パフォーマンス」内の「ヒストリー&キャッシュ」で設定できる「ヒストリー数」のデフォルト値は50程度ですが、もし頻繁にメモリ不足に陥る場合は、この値を20〜30程度に減らすことを検討してください。
- スナップショットの削除: スナップショット機能は作業途中の状態を一時的に保存しますが、これもメモリを消費します。不要になったスナップショットはヒストリーパネルから手動で削除してください。
3. ファイルの統合(ラスタライズ)とスマートオブジェクトの処理
作業の最終段階では、編集可能なテキストやスマートオブジェクトをラスタライズ(通常のピクセルベースのレイヤーに変換)することで、Photoshopの処理負荷を軽減できます。
- 統合/結合: 全ての編集が完了した後、ファイルを保存する前に「レイヤーを統合」することで、レイヤー数が劇的に減り、ファイルサイズが小さくなります。ただし、これは後からの編集が不可能になるため、必ず編集可能な元のファイルを別名で保存してから行ってください。
これらの習慣的なデータ整理は、Photoshopの動作を快適に保つだけでなく、作成したファイルをクライアントや共同作業者に送る際のファイルサイズ削減にも繋がり、プロとして求められるファイル管理能力の一部と言えます。
スクラッチディスクの設定変更で動作を安定化
メモリが不足した際、Photoshopが一時的な作業領域として使用するのが「スクラッチディスク」です。このスクラッチディスクの性能と設定が、Photoshopの安定性と速度に決定的な影響を与えます。もしあなたのPhotoshop環境が頻繁に動作停止したり、エラーメッセージが出たりする場合、スクラッチディスクの設定が最適化されていない可能性があります。
スクラッチディスクの選択基準
スクラッチディスクの最適な選択肢は、以下の条件を満たすストレージです。
- システムドライブ(OSやPhotoshopがインストールされているドライブ)とは別のドライブを選ぶ: OSやPhotoshopがすでにそのドライブを頻繁に使用しているため、読み書きが競合し、パフォーマンスが低下するのを防ぐためです。
- SSD、特にNVMe接続の高速SSDを選ぶ: HDDとSSDではアクセス速度が桁違いに異なります。スクラッチディスクとしてHDDを選ぶと、メモリ不足時に待ち時間が大幅に増加します。最も高速なストレージを割り当てるようにしてください。
- 十分な空き容量があるドライブを選ぶ: Adobeは、プライマリスクラッチディスクとして、最低でも50GB〜100GB、できればPhotoshopファイルサイズの10倍程度の空き容量を推奨しています。空き容量が少なくなると、Photoshopが動作不安定になる原因となります。
スクラッチディスクの設定手順
- Photoshopの「環境設定」>「スクラッチディスク」を開きます。
- 利用可能なドライブの一覧が表示されますので、上記基準に従って、最も高速で空き容量の多いドライブを「第1のスクラッチディスク」としてチェックします。
- 複数の高速ドライブがある場合は、2つ目、3つ目にもチェックを入れておくことで、第1のドライブの容量が限界に達した場合に、自動的に次のドライブを利用してくれるようになります。
ドライブタイプ | スクラッチディスクとしての適性 | 理由 |
システムSSD (C:ドライブなど) | 避けたい | OSと競合し、速度低下しやすい |
専用の高速NVMe SSD | 最適 | 圧倒的な読み書き速度とOSとの非競合性 |
外付けUSB 3.1以上のSSD | 可 | 内蔵SSDに次ぐ速度。接続ポートに注意 |
HDD(内蔵・外付け) | 非推奨 | 読み書き速度が遅く、ボトルネックとなる |
もし、内蔵ストレージが1つしかないノートPCを使用している場合は、システムドライブであっても、極力100GB以上の空き容量を確保するように心がけてください。このスクラッチディスクの設定を見直すことが、Photoshopの安定性と快適性を飛躍的に向上させる最後の砦となります。
参照元:専門家Q&A:スクラッチディスクの選び方と設定のコツ
Windows/Mac別のおすすめ設定調整ポイント
Photoshopの設定調整は、OSの種類によって最適なアプローチが異なります。WindowsとMacでは、メモリやグラフィック処理の管理方法が違うため、それぞれのOSの特性に合わせた設定を行うことで、動作の重さをさらに解消することができます。
Windowsで試すべき調整ポイント
電源設定の変更
Windowsでは、デフォルトで「バランス」や「省電力」モードに設定されていることが多く、これはCPUやGPUの性能を意図的に抑えてバッテリー消費を抑える設定です。Photoshopのような高性能を要求するソフトを使う際は、この設定を一時的に変更する必要があります。
- 設定手順: 「設定」>「システム」>「電源とスリープ」>「電源の追加設定」(または「関連設定」から辿る)に進み、「高パフォーマンス」または「究極のパフォーマンス」プランを選択してください。これにより、PCの性能が最大限に引き出され、Photoshopの処理速度が向上します。
グラフィック設定でPhotoshopを優先
Windows 10/11には、特定のアプリケーションに対して使用するグラフィックカードを指定する機能があります。
- 設定手順: 「設定」>「システム」>「ディスプレイ」>「グラフィック」に進み、Photoshopの実行ファイル(.exe)を追加し、「オプション」から「高パフォーマンス」を選択します。これにより、高性能な専用GPU(NVIDIAやAMDなど)が確実にPhotoshopの描画処理を担うようになります。
Macで試すべき調整ポイント
アクティビティモニタでのメモリ監視
Macのメモリ管理は優れていますが、それでもブラウザのタブや動画再生アプリなどが大量にメモリを消費することがあります。「アプリケーション」>「ユーティリティ」内の「アクティビティモニタ」を開き、「メモリ」タブで、特に「App Memory」と「Cached Files」のバランスを監視してください。
- 確認点: Photoshop作業前にメモリを消費しているアプリを見つけ出し、終了させることで、ユニファイドメモリを最大限にPhotoshopに割り当てられるようになります。
GPUの使用状況チェック
Macの環境設定には、Windowsのような明確なグラフィック設定はありませんが、Photoshopの「環境設定」>「パフォーマンス」内にある「グラフィックプロセッサーの設定」で、必ず「グラフィックプロセッサーを使用」にチェックが入っていることを確認してください。もしGPUが認識されていない場合は、OSやPhotoshopのアップデート、またはドライバの更新(外部GPU使用時)が必要です。
これらのOS固有の調整を加えることで、PhotoshopがOS側の制限を受けずに、その高性能を最大限に発揮できる環境が整います。OSの設定はPhotoshopの設定と合わせて、動作の安定性を高める上で非常に重要です。
Adobe Photoshop 動作重い・メモリ不足を防ぐための習慣チェック【まとめ】
プロのクリエイターとして、Photoshopの動作を快適に保つことは、単なる設定変更ではなく、日々の習慣によって成り立ちます。動作の重さに悩まされることなく、常に最高のパフォーマンスで作品制作に取り組めるよう、ここに動作の重さとメモリ不足を防ぐための10個のチェックリストをまとめました。これらの習慣を実践することで、あなたは常に安定した制作環境を維持できるようになります。
以下のチェックリストを参考に、あなたのPhotoshopライフをより快適なものへと変えていきましょう。
- 定期的な再起動
パソコンを長時間スリープ状態にするのではなく、一日の作業を終える際に必ず再起動を行い、メモリとシステムの一時ファイルをクリアにする習慣をつけましょう。 - メモリ割り当ての最適化
「環境設定」のパフォーマンス設定で、Photoshopへのメモリ割り当てを70%〜85%の範囲に設定し、OSとのバランスを取るようにしましょう。 - 高速なスクラッチディスクの確保
スクラッチディスクには、OSやPhotoshopがインストールされているドライブとは別の、空き容量の多い高速なSSDを割り当てることを徹底しましょう。 - ヒストリー数の抑制
ヒストリー数をデフォルトの50から20〜30程度に減らすことで、アンドゥ可能な範囲は狭まりますが、メモリの消費を大幅に抑えることができます。 - キャッシュレベルの適切な設定
作業内容に応じてキャッシュレベル(一般的には4〜6)を設定し、ズームやパンの操作性を最適化しましょう。超巨大ファイルを扱う場合は低レベル、レイヤー数の多い場合は高レベルが適しています。 - 不要なレイヤーの整理
デザインが確定したレイヤーは統合したり、最終版から不要な非表示レイヤーを削除したりすることで、ファイルサイズとメモリ消費を最小限に抑えましょう。 - プラグインの断捨離
使用頻度の低いプラグインや拡張機能は積極的にアンインストールまたは無効化し、Photoshopの起動時間と動作中のメモリ負荷を軽減しましょう。 - 作業時の他アプリの終了
Photoshopでの作業中は、ウェブブラウザや他のリソースを大量消費するアプリケーションをすべて終了し、Photoshopにリソースを集中させましょう。 - GPUドライバーの最新化
使用しているグラフィックカードのドライバーは常に最新版に保ち、PhotoshopがGPUの性能を最大限に活用できる状態を維持しましょう。 - OSとPhotoshopの定期的なアップデート
OSやPhotoshopの最新バージョンには、パフォーマンスの改善やバグ修正が含まれていることが多いため、アップデートを怠らないようにしましょう。
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